【RIZIN36】平本蓮は鈴木博昭に勝てるか?

【RIZIN36】平本蓮は鈴木博昭に勝てるか?

2022年6月24日

2022年7月2日(土)に沖縄アリーナにて行われるRIZIN36で対戦が決定している平本蓮と鈴木博昭。この対戦は「契約体重66kg以下(RIZINフェザー級)」「RIZIN MMAルール」の条件で実施される。試合順は第12試合目の“セミメイン”、メインは「朝倉海 vs ヤン・ジヨン」だ。今回の記事では、メインではなくセミメインの「平本蓮 vs 鈴木博昭」についてカードに対する感想を述べ、その後に試合展開や勝敗の予想をしていきたいと思う。

※朝倉海の負傷欠場により、平本蓮vs鈴木博昭はRIZIN36のメインカードになった

ここが平本蓮のターニングポイントか

この対戦カードを知ったときにまず思ったことは「ここが平本蓮のターニングポイントになるかもしれない」ということだ。この記事を書いている現時点(2022年6月下旬)で平本蓮のMMA戦績は0勝2敗。デビュー戦である萩原京平戦は2ラウンドTKOで敗れ、2戦目の鈴木千裕戦は3ラウンド判定で敗北を喫している。

1戦目はキックボクサーとしての癖や感覚が抜けておらず、打撃の距離感や寝技への対応がMMA仕様にアジャストできていなかったために、萩原にそこを徹底的に突かれ、一時は打撃で萩原をぐらつかせる場面もあったが、全体を通して見れば、打撃で突き放すこともタックルを切ることもできず、とにかく転がされてしまった。そして最後は“寝かしてグラウンドで肘とパウンド”という「MMAにおけるキックボクサーの倒し方の定石」を萩原にきっちり実行され、敗北となったのである。

2戦目の鈴木千裕戦は、対戦相手の鈴木が平本と同様にキックボクシングをバックボーンに持つファイターであったこともあり、持ち味の打撃が発揮される場面は多かったものの、MMA戦績10戦以上かつ国内準メジャー団体のチャンピオンクラスを下した経験を持つ鈴木とは(鈴木は2021年11月のRIZIN TRIGGER 1stでFighting NEXUSフェザー級王者の山本空良を3ラウンド判定で下している)、MMAにおいて最も重要な要素のひとつ“総合力”の部分で差が出てしまい、結果3ラウンド判定で敗北した。

総合力とは、「打撃からグラウンドへ移行する際のスムーズさ」だったり、「苦しい局面で相手の弱点を突けるだけの判断力や技術力の多寡」だったりを意味する。キックボクシング(K-1)からMMAに転向して2年ほどしか経っていない平本は、まだこの総合力というものがRIZINに出場してくるレベルのファイターたちと比較して足りていない状況だった。打撃のレベルは説明不要だろうし、グラップリングやレスリングについても、武器になるほどではないにしろSNSに投稿している練習風景や実践の動きを見る限りでは基礎的な動きはおおよそ身に付けているように思われる。

ただ、これらの独立した技術を「MMAとして組み合わせること」が実に難しく、研鑽にはとにかく時間がかかる。キックボクサーとして打撃の素地をもつ平本は、レスリングとグラップリングに最低限の対処ができれば、ストライキングで相手を上回り続けて勝つことができるが、まずその最低限のハードルが高いので、RIZINレベルの舞台だとなかなか勝ちが見えてこない。とはいえ、1戦目に比べて2戦目は明らかに“MMA力”を高めてきたことが見て取れた。ルーファスポーツジムでの海外修行が実を結んでいる部分は大いにあるだろう。

“怪物くん”鈴木博昭

そして迎える第3戦目の相手が“怪物くん”の異名を持つ鈴木博昭である。鈴木博昭は、現RIZINライト級王者ホベルト・サトシ・ソウザや朝倉未来をサブミッションで失神KOしたクレベル・コイケらを擁する「ボンサイ柔術」のチームに身を置いているMMAファイターだ。柔術系ジムに所属している鈴木だが、平本と同様に立ち技格闘技(シュートボクシング)をバックボーンに持ち、ファイトスタイルもフィジカルを活かした打撃を中心としている。MMA戦績は2勝1敗。1敗はこちらも平本と同様に萩原京平に敗北しており、ただし鈴木の方はKOではなくグラウンドでコントロールされての3R判定負けであった。

前戦の昇侍戦(2022年3月6日開催のRIZIN LANDMARK vol.2)は1Rに左フックで相手をKO、MMA2勝目を獲得している。

ファイトスタイル的に噛み合う可能性は高い

鈴木もストライキングをベースとしたファイトスタイルなので、平本とは噛み合う可能性が高い。また、身長が167cmと比較的小柄なタイプで打撃の性質はムエタイ色が強く、ストライカーの中でも近接戦を得意としているタイプなので、その点も噛み合う要因のひとつに数えられるだろう。鈴木は「ONE」のムエタイ部門でバンタム級タイトルマッチまで辿り着いている。同じ立ち技系格闘技をバックボーンにもつファイターとして平本に負けない、もしくは世界市場に視点を置いた場合、平本以上の評価を得ている可能性も十分にあり、実績豊富だ。

MMA歴は同じくらい。だからこそ

似たようなバックボーンと同等クラスの実績を持ち、ファイトスタイルも似ている鈴木を相手に平本はどう戦うのか?

3連敗は避けたいはずだ。MMAに限らず格闘技はレコードのきれいさが選手の評価に大きな影響を与える。ここで勝てば、レコード上で盛り返しの兆しをアピールできる。また、本人も“勝利の感覚”を味わうことで勝ち方が体感でわかってくるはずだ。それが転換点となり、この戦いを機に連勝街道を突っ走る未来も見えてくる。

しかし、反対にここで負けてしまったとしたら。レコード上厳しいことは言うまでもなく、何より本人自身が辛い。MMA歴でいえば鈴木よりも平本のほうが長いので、これまでの負けは「MMA歴が短かったから」という理由が根拠として力を持っていたが、今回はそうはいかない。周りがとやかくいうことではないが、本人の心持ちとしてそう感じる部分だと思う。そういった意味で、この鈴木戦は平本蓮にとってターニングポイントとなる試合だと感じた。

平本蓮 vs 鈴木博昭|試合展開の予想

では、実際の試合展開はどうなるのか。個人的な予想を話していきたいと思う。まずわかりやすく考えられるのは、グラウンドの展開はあまり訪れないだろうということだ。互いにストライカーでありMMA歴も浅いため、習得に時間を要する寝技やレスリングを今の段階で武器にするもしくは実践で使ってくるとは考えにくい。スタンドで戦う場面が多くなるはずだ。

平本蓮の打撃力

では、ストライキングが最も活きる距離、中間距離での攻防はどのようになるだろうか。この点については、平本が優勢だと思う。近〜中間距離におけるストライキングのセンスはフェザー級の中でも随一といえる。直近の鈴木千裕戦でも、打ち合いで競り勝っているように見える場面がいくつか見られた。平本はストレート系の打撃が非常にきれいで、真っすぐに相手を打ち抜く。鈴木千裕のようにフック系のパンチが得意なファイターは、こういう体の正面から抜けてくるストレートを被弾しやすい。フックよりストレートのほうが打点までの距離が短く、到達が速いからだ。ハンドスピードも速く、純粋に打撃しか使えない状況でこの距離を平本と戦い制することができるフェザーの選手はいない気がする(それはもはやキックボクシングなので当然といえば当然だが……)。

鈴木は蹴りで応戦か

対する鈴木博昭は、中間距離だと左のミドルやハイが武器になるだろう(スイッチすることも多いので、そのときは右の蹴りをよく使う)。この左で平本の前進を止められるか、中間距離を制することができるかが焦点となりそうだ。蹴りで牽制しながら一定の距離を保ちつつ、要所で距離を詰めてパンチで仕留めにいく、こういった展開が鈴木としては理想形かもしれない。しかし平本はK-1時代に蹴りが得意なムエタイの強豪ファイター(ゲーオやゴンナパー)を倒しているので、左ミドルやハイで怯ませることは難しそうだ。距離を潰され、平本の得意な近距離まで持ち込まれてしまう場面が何度かは訪れると予想する。

勝敗予想|平本蓮のKO勝利

これまでの展開予想を踏まえた上で、個人的な勝敗予想を述べていこう。私は、平本蓮が2Rに右ストレートで鈴木をKOすると予想する。両者ともにMMA歴が浅くまだ成長途上の段階で未知数なところが多いので、過去の映像は参考にならない可能性が高いが、打撃の展開が中心となることを考えるとやはり平本のほうが優勢な気がする。とはいえ、鈴木博昭は萩原京平を相手にグラウンドの展開までもつれ込ませ、判定に至っているので、MMAへの適応度でいえば鈴木かもしれない。そう考えると、意外と打撃の展開は避けて、フィジカルを活かして組みにくる可能性も十分ありそうだ。もしそうなったら、鈴木はシュートボクシングやムエタイで培ったスタンドでの組み技を活かす道筋も見えてくる(いままで見せたことはないが、クレベルにあの近接肘を伝授したのは鈴木らしいので、スキルはあるはずだ)。いずれにせよ、勝敗予想をしてみたものの、実際のところどうなるかはわからない。当日が非常に楽しみである。