2022年6月19日(日)に東京ドームにて行われたキックボクシングイベント「THE MATCH 2022」。ここ数年に実施された格闘技イベントの中でも最大級の盛り上がりを見せた本イベントは、那須川天心と武尊の両雄を筆頭にして「K-1 vs RISE連合軍」の構図で行われました。
結果は、K-1側が6勝・RISE連合軍が9勝と勝利数だけで見るとRISE連合軍側に軍配が上がる形に(本戦のみ)。また、メインイベントであり“大将戦”ともいえる那須川天心vs武尊についても那須川天心が3ラウンド判定で勝利しており、勝利数に限らず総じてRISE連合軍側が強さを証明したものといえます。
今回の投稿では、そのような結末を迎えたTHE MATCH 2022について、一夜明けてみて筆者自身が思ったことや考察、今後の展開について書いていきたいと思います。
目次
【THE MATCH 2022】K-1 vs RISE・SB連合軍 試合結果
まずはじめに、THE MATCH 2022の全試合結果を振り返ります。表に起こすと、以下のようになりました。
試合順 | 勝敗 | RISE連合軍 | K-1 | 勝敗 |
---|---|---|---|---|
第1試合 | 勝利 | 鈴木真彦 | 金子晃大 | ー |
第2試合 | ー | 志朗 | 玖村将司 | 勝利 |
第3試合 | 勝利 | 江幡睦 | 璃明武 | ー |
第4試合 | 勝利 | 風音 | 黒田斗真 | ー |
第5試合 | 勝利 | 笠原友希 | 中島千博 | ー |
第6試合 | ー | 内田雄大 | マハムード・サッタリ | 勝利 |
第7試合 | ー | 山下力也 | シナ・カリミアン | 勝利 |
第8試合 | ー | ブラックパンサー・ベイノア | 和島大海 | 勝利 |
第9試合 | 勝利 | YA-MAN | 芦澤竜誠 | ー |
第10試合 | 勝利 | 中村寛 | レオナ・ぺタス | ー |
第11試合 | ー | 白鳥大珠 | ゴンナパー・ウィラサクレック | 勝利 |
第12試合 | ー | 山田洸誓 | 安保瑠輝也 | 勝利 |
第13試合 | 勝利 | 原口健飛 | 山崎秀明 | ー |
第14試合 | 勝利 | 海人 | 野杁正明 | ー |
第15試合 | 勝利 | 那須川天心 | 武尊 | ー |
*本戦のみ。オープニングファイトの試合結果は除いています。
K-1側は王者3名が敗れる結果に
勝敗数は冒頭でも触れた通り、K-1側が6勝・RISE連合軍が9勝でRISE単体だと7勝です。全体の勝敗数でも敗れる結果となったK-1側ですが、その事実以上に苦しいのは現役王者3名が敗れてしまったこと……。スーパーバンタム級 金子晃大・ウェルター級 野杁正明・スーパーフェザー級 武尊。この3名のチャンピオンはK-1の柱的存在であり、特に野杁正明はK-1のPFPで武尊に次ぐ評価を受けている選手です。最近のK-1は武尊と野杁正明の二枚看板といった陣営で、厳密には業界外であるはずのMMAファイターも「野杁選手はやばいですよね」なんてレビューをしているくらい野杁の存在感はここ最近で急激に高まっていました。試合前の下馬評では野杁正明が圧倒的に勝つのではないかという声も多数上がっていて、筆者自身も、海人が非常に優れたファイターであることは認識しつつ、野杁正明のほうが強いと思っていました。しかし、その野杁がまさか延長で海人に敗れることに……。この事実は多くのK-1ファンにとって受け入れがたいものかもしれません。
また、金子晃大が敗れてしまったこともK-1ファンにとっては苦しい事実だと思います。鈴木真彦はRISEバンタム級王座を戴冠しているものの、ここ最近は志朗・那須川天心と最上位クラスの相手にはなかなか勝ち星を拾えない状況が続いていました。つまり、金子晃大は、鈴木真彦に勝つことができれば、そういった最上位クラスの選手と渡り合えることを証明できたかもしれないわけです。しかし、結果は2-0の判定で鈴木真彦の勝利でした。むしろ反対に、鈴木真彦がK-1のスーパーバンタム級で王者クラスであることを証明した結果になったのです。
那須川天心は右ジャブで試合をコントロールした
そして、大将戦である那須川天心と武尊の試合です。武尊はプレッシャーのせいかかなり動きが硬く、武尊の武器である前足へのローキックが出ませんでした。「ローキックからリズムを作り、パンチにつなげ、最後は打ち合いに引き込んでKOする」というのが、ここ最近の武尊の勝ちパターンです。しかし今回はパンチに意識が集中してしまいました。魔裟斗氏がよくいいますが、「(キックボクシングは)蹴るからパンチが当たる。蹴って相手の意識を散らさないと、パンチは当たらない」のだそうです。武尊の最大の武器は回転力を活かしたフック系のパンチですが、それを活かすためにはローキックが必要不可欠。ローを出すことができなかった武尊は、結果的に最大の武器をも繰り出すことができずに、天心に敗れる形となりました……。また、天心の右ジャブが刺さったことも、武尊がローを蹴れなかった要因かもしれません。天心の右ジャブは相当速いようで、武尊がそれでダメージを受けていたのかは不明ですが、何発も被弾していました。ダメージは少なくとも天心はそれで試合のリズムを作ることができたと思いますし、ダウンを奪った左のクロスカウンターも、右ジャブで武尊を翻弄したからこそ当てることができたものだと思います。
中村P「K-1選手は“K-1が強い人”が勝つ」の意味
K-1の中村プロデューサーは、SNSなどでよく「K-1は“K-1が強い人”が勝つ」といっています。今回は、それがよくわかったような気がします。K-1で勝てるのは、キックボクシングが強い人ではなく“K-1が強い人”、つまりK-1の団体理念を体現できるファイターです。K-1の団体理念は、昔から「アグレッシブな打ち合いで観客を魅せること」だと管理人的には考えています。所属するファイターはその理念を胸に秘めて戦っていると思いますし、実際の判定結果や試合展開にも理念はしっかりと反映されていると思います。ブランド理念がしっかりしているからこそ、K-1はキックボクシング業界において唯一無二のポジションを獲得できました。しかし今回は、純粋なK-1ルールではありません。各団体のルールを折衷案にしたキックボクシングルールです。K-1ルールと対比するためにあえて言うならば、「キックボクシングが強い人が勝つルール」だともいえます。だから、「K-1ルールで強いからといってキックボクシングでも強いとは限らない」という逆の論理が証明される機会ともなり得てしまい、実際にいくつかの試合でそれは証明されてしまいました。とはいえ、この論理は団体ごとに微妙にルールが異なる以上、K-1に限ったことではありません。特に、ヒジ・ヒザが使えるKNOCKOUTなどは他団体に乗り込むたびにアウェイですし、SBの海人はSBに軸足を置きつつ、他団体のキックルールで強さを証明し続けています。ただ、K-1は特に団体理念がしっかりと浸透しているので、中村プロデューサーがいう「K-1選手は“K-1が強い人”が勝つ」の意味を強く感じてしまいました。
今後のキックボクシング界はどうなるのか
『那須川天心と武尊』という大きすぎる物語が終わりを迎え、キックボクシング業界は今後どのようになるのでしょうか。「K-1は今回を機に開国すべきだ」という主張をSNSなどで見聞きしますが、管理人の個人的意見としては、開国はせずに今後も団体内でストーリーを作り続けて欲しいなと思います。『那須川天心と武尊』の物語が、東京ドームに5万人のファンを呼び込み50万枚以上のPPVを売り上げるまでに盛り上がったのは、那須川天心という主人公がいたことはもちろんですが、K-1が団体の中できちんとストーリーを作り続けてきたからこそだと思います。これがもし定期的に他流試合を行うような運営だったら、その都度ファンの期待値は消化されてしまいます。もちろん盛り上がるとは思いますが、熟成しなければ今回の最高到達点を更新することはできません。その意味で、K-1は今後も団体内でストーリーを育んでいくのがよいのかなと思いました。また、RISEは新たなスター候補を迎え入れることを発表しました。KNOCK OUT BLACK初代スーパーフライ級王者・花岡竜とKNOCK OUT-REDフェザー級王者・安本晴翔です。どちらも非常に将来が楽しみな若手ファイターで、天心の後継者になり得る、もしくは超えるポテンシャルを秘めた逸材です。彼らを迎え撃つであろうRISEファイターたちの中には、今回のTHE MATCHを経験した選手も多いはずなので、そこがどのように交わっていくのか、外敵を跳ね返すのか、侵略を許すのか。そもそもRISEは門戸が広く、出るのも入るのも自由な感じなので、外敵とかそういう概念すらなさそうですが、ファンとしては内と外の構図が見えて期待値が高まります。
【THE MATCH 2022】ありがとう天心、ありがとう武尊
色々と書いてきましたが、本当に今回のイベントは最高でした。全ファイター、全関係者の方に感謝の気持ちを贈りたいです。キックボクシングが好きでよかったと、心から思えました。また、那須川天心と武尊という2人のスター。旧K-1が消滅し、迎えたキックボクシング冬の時代。彼らがいなければ、あの時代を乗り越えることはできなかったと思います。